子どもの頃、祖母が苦手だった。
夏休みと冬休みを新潟の祖父母の家で過ごしていたが、一緒に住んでいるわけではないので、何を話せばいいかわからなかった。
祖母の家の床の間には、仮名の掛け軸がかかっていた。
仮名文字の細い曲線が、なめらかできれいだと思った。
「おばあちゃんが書いたんだよ」と、誰かが教えてくれた。
農業と家事をしている人だと思っていたので、意外だった。
今年で習字をはじめて10年になる。
祖母の家には、いつも4、5匹のねこがいた。
私が追いかけると、どのねこも逃げたが、祖母の近くでは静かに佇んでいた。
寝床の近く、冷蔵庫の上、ミシン台の影。
つかず、離れず、祖母のそばにいた。
今年、ねこを飼いはじめて、こちらも10年近くになる。
もう一つ思いだすのは、新宿伊勢丹地下のティールームだ。
晩年、膠原病を患った祖母は、定期的に東京に治療に来ていた。
治療の帰りに、そのティールームで2,000円もする紅茶のセットを頼んでいたのだと、母から聞いた。
「こんな高いところで」とか「田舎者だから、こんな高い店に入ってしまう」とか、そんなことを言っていた気がする。
祖母は、母の前で、「俺、全部やった」と言ったことがあったらしい。
結婚、子育て、農家、介護、孫の世話、病気。
自分は全部やったとは到底言えない。でも、PAULでちょっと高めのパンを買ったり、カリフォルニアのワインを買ったりする。
そんなとき、祖母を思い出す。
他に思い出すのは、自宅の居間に置かれた介護ベッドで、寝る姿だ。
床ずれが痛いと言っていた。
その時、「床ずれ」という言葉を初めて聞いた。
話すことは多くなかった。
でも、たくさん見せてくれた。
ーーお盆に寄せて。